演劇

さとみちゃん主演舞台「ピグマリオン」 感想

先週の土曜日と日曜日、泊まりがけで、さとみちゃん主演の舞台、「ピグマリオン」を昼、夜、昼と3回見てきました。(千穐楽も見に行きました!)これまでにも私は、「何日君再来」、「オペラ・ド・マランドロ」、「細雪」などの舞台を見てきましたが、登場するキャラクターの強烈な個性とテンポ良く進む物語、華やかな演出は、これらの舞台に引けをとらず、単純に演劇を楽しむと言う意味では、「ピグマリオン」が最も面白いと思った舞台でした。

さとみちゃんは、下品で粗野なコベントガーデンの「腐ったキャベツの葉っぱ」である、貧しい花売り娘から、気品すら漂わせる淑女への変身を見事に演じ切っていました。

平 岳大さんは、頑固で偏屈で変わり者のヒギンズを、口角泡飛ばす勢いで熱演していました。

イライザとヒギンズの言い合いは言葉の格闘技のようで、二人とも膨大なセリフをほぼノーミスで演じており、その集中力と記憶力に驚きました。

小堺さんは、登場する度に笑いが起きており、天性のコメディアンだなと思いましたし、娘を5ポンド(※)で売り渡す最低の父親だが、ある種の透徹した人生観を持つ、ゴミ収集人アルフレッド・ドゥーリトルを、コミカルに演じていて、まさに、はまり役でした。

※1ポンドを今の日本円に換算するといくらぐらいになるのか調べましたが、2万円程度から7万円近くまで、いろいろな説があり、こちらのサイトでは、1ポンドが大体6.5~8万円ぐらいということですので、5ポンドは、32.5万円から40万円ということになります。
このぐらいなら、「一晩で飲んじまう」ことも可能かなと思いました。

そのほかにも、ピカリング役の綱島郷太郎さんは、とことん紳士で、嫌みなヒギンズとの対比が物語に一層の深みを持たせ、ミセス・ヒギンズ役の倉野章子さんが登場すると場の空気がピリリと締まり、家政婦のミセス・ピアス役の増子倭文江さんがアクセントとなるなど、脇を固める俳優さん達の存在感も大いに感じられる舞台でした。

舞台セットは、ほぼ板に線画を描いただけというシンプルな物でしたが、役者が舞台上で演じると とたんに色彩を帯びて、情熱溢れるヒギンズの研究室や、お洒落で上品なミセス・ヒギンズの客間、清潔で可愛いイライザの寝室に様変わりします。

特に華やかだったのが、休憩の後、2幕開始早々の大使館での舞踏会のシーン、白いビロード地に、金糸の刺繍のされたドレスを着て、宝石のティアラとネックレスを身につけたイライザが登場すると、場面が一瞬で華やかになり、その圧倒的な存在感は神々しい程で、イライザが階段を昇っていってドアのところで振り返るシーンは、まさに王女の気品を漂わせていました。

このさとみちゃんには、私の周りに居たおば様方が口々に、「可愛い」を連呼していました。

その後の社交ダンスのシーンでは、さとみちゃんが見事なステップを踏み、特にヒギンズ教授とのダンスシーンでは、ピッタリ息の合ったダンスを披露してくれました。

余談ですが、このシーンで登場するヒギンズの昔の生徒で、インチキ音声学者のネポマックがまさに私のイメージしていた通りの人で、似合いすぎと思いました。(^_^;

さて、ここから、シーン毎の感想を書いておきます。(ここでいう「第1幕」は、公演の区切りではなく、台本上の「第1幕」です。)若干ネタバレがありますので注意して下さい。

第1幕の冒頭のコヴェント・ガーデンの教会前のシーンで、貧しい花売り娘のイライザを演じるときのさとみちゃんは、緑の帽子に黒い上着、白のブラウス、厚手で薄茶色のごわごわしたスカートを履き、髪はボサボサという姿で登場。汚らしい格好をして、下品な言葉と、はしたない格好(がに股)をしていても、どことなく可愛いのは、さとみちゃんならではですね。

イライザが話す訛り言葉は、原作のコックニー訛り(イギリスのロンドンの下町言葉)を、既存のどこか地方の訛りに当てはめたものでは無く、翻訳者の小田島恒志先生が、今回この舞台の為に考案したもので、「ハヒフヘホ」が「h」が抜けて「アイウエオ」になったり、他にも「アイ」が「エイ」、「エイ」を「アイ」と読むと言う変換が行われていて、例えば、「払って」は、「あらって」、「花売り娘」は、「あな売り娘」になります。

光文社古典新訳文庫版の「ピグマリオン」を読んだときには、すごく覚えにくいセリフに思えて、小田島さん、何というむちゃ振りと思ったものですが、これが、実際にセリフとして、さとみちゃんや小堺さんの口から発せられると、そのみすぼらしい風体に絶妙にマッチしていてピッタリでした。ふたりともこの「訛り」を完全にマスターしている感じでしたね。

第2幕でイライザが初めて暖かいお風呂に入るシーンでは、イライザが嫌がってミセス・ピアスともみ合いになるのですが(カーテン越しに言葉が聞こえるだけ)、嫌がるイライザを無理矢理入浴させるさまは、拾ってきた子猫を洗っている時の様だなと思いました。

第3幕のミセス・ヒギンズ邸の招待日のシーンでは、水色生地に青い刺繍のされたドレスに身を包み、外見はすっかり淑女になるのですが、ロボットが話すような「ごきげんよう」の挨拶や、アナウンサーが読み上げる様な天気予報をしてみせるところと、その後の叔母がインフルエンザで亡くなった話を「やっちまった」などの下町言葉をちりばめながら生き生きと話す姿のギャップが面白く、一番笑ったシーンでした。全編を通しても、この第3幕の招待日のシーンが最も笑いの起こったシーンでしたね。

第4幕で、舞踏会から帰ってきて、ヒギンズとピカリング大佐が、イライザそっちのけで大喜びするシーンでは、離れた所にぽつんと座るイライザの苦悩と不安を、さとみちゃんが、表情とちょっとしたしぐさで表現していますので、是非見逃さないでください。

この後、ヒギンズとイライザが口げんかして、絶望したイライザが家を飛び出し、イライザ恋しさに夜な夜な家の前に佇んでいたフレディーに、ばったり会うのですが、一途にイライザを愛するフレディーの誠実さにイライザが救われるのを見て、フレディーグッジョブと思いました。

正直フレディーについては、ヒギンズの言うとおり何もできない、どうしようも無く情けない男で、イライザの結婚相手としは納得いかない面もあったのですが、ヒギンズの冷たい言葉に打ち拉がれたイライザの心を満たしたのは確かにフレディーであり、イライザにとって最良の選択だったんだなと思いました。

第5幕では、ヒギンズのおかげで大富豪になったイライザの父、アルフレッド・ドゥーリトルが再び登場し、ヒギンズとイライザの身分違いの問題は解消して、めでたく二人は結ばれ・・・・・・とは成らないのが、「ピグマリオン」ですね。

最後にヒギンズとイライザの二人きりで言い合いをする所は、ヒギンズの頑固さとイライザの健気さが、切ない感情を掻き起こして、ラストのイライザの選択は、すがすがしさと共に、ちょっと寂しさを纏う、そんな気がしました。

余談ですが、日曜日の昼の回、第5幕のミセス・ヒギンズ邸で小堺さん演じるイライザの父、アルフレッド・ドゥーリトルが、バルコニーに隠れているシーンで、小堺さんがアドリブでくしゃみして、ピカリング大佐が一瞬リアクションしていましたが、役者さんも芝居に慣れてくるとアドリブをガンガン入れてくると思うので、そんな所も、舞台の見所の一つだと思います。

舞台、「ピグマリオン」は、さとみちゃんのファンはもとより、演劇好きの方、演劇を見たことを無い方も楽しめる舞台になっていると思いますので、まだ、見ていない方は是非劇場に足を運んでみてください。

Return Top