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映画「風に立つライオン」感想

映画「風に立つライオン」感想

さとみちゃんが出演している映画「風に立つライオン」の感想を書きたいと思います。

この映画はケニアの国境付近にある赤十字戦勝病院に派遣された日本人の医師、島田航一郎(大沢たかお)が看護師の草野和歌子(石原さとみ)とともに、隣国スーダンの内戦で負傷した兵士達の治療に奮闘する姿と、戦火に傷ついた少年兵達との心の交流を通して未来に命のバトンをつないでいく物語です。

この映画、絶対に観てください。お勧めです。

どこがいいかと言いますと、まず、さだまさしさんの原作小説を忠実に再現するために小説の舞台であるケニアや長崎県の離島でのロケが行われており、よりリアリティーのある作品になっています。特にサバンナの荒涼とした風景や、それと対象的な朝焼けの美しさは現地でなければ撮影出来なかった風景だと思います。

そして大沢たかおさん演じる医師、島田航一郎がとにかく格好いいです、といってもヒーロー然としているのではなく、こうと決めたことは何が何でもやり遂げる、一度や二度の失敗や挫折にはくじけずに最後まで諦めない姿勢が格好いいなと思いました。

そんな島田航一郎が、夜の闇に向かって一人で「頑張れ!」と叫ぶシーンが何回も登場します。内戦で負傷した兵士や悲惨な境遇にある子供達へのエールだと思っていましたが、実はその言葉は自分自身に向かって言っているのだそうです。島田航一郎がスーパーマンではなく理想と現実のギャップに悩み葛藤する姿は、島田航一郎をより魅力的な主人公にしているなと思いました。

さとみちゃんの演じる草野和歌子ですが、彼女もまた非常に強い女性です。たった一人でケニアの国境近くの戦勝病院に来て、負傷した兵士や子供達のケアに邁進し、親や身寄りの無い子供達のために病院の敷地内に孤児院を設立します。

さとみちゃんについて、いつもならここが可愛かったとか萌えポイントとか書くのですが、この映画でのさとみちゃんは紛れもなく和歌子でした。

和歌子で印象に残っているシーンがサッカーで遊ぶ子供達から離れて一人でベンチに腰掛けている少年にそっと寄り添ってあげるところです。雑誌のインタビューで書かれていた、「最初セリフがあったけどセリフを無くした」というのはもしかしたらこのシーンかなと思いました。和歌子の優しさと暖かさが感じられる良いシーンだったと思います。

劇中で和歌子が子供達に「いただきます」を教えるシーンがありますが、外国には「いただきます」に相当する言葉がないそうで、「食べ物となる動物や植物の命をもらって自分の命をつなぐ」という日本人の精神性はすばらしいなといつも思います。また、戦争という命を捨てる行為のアンチテーゼとなっていることも深いメッセージ性を感じました。

あと、この映画は日本映画にもかかわらずケニアのシーンは殆どが英語だけの会話になっていて、さとみちゃんの流暢な英語の発音にイーオンさすがだなと思いました。

なにげにイーオンの目の付け所は凄いなと思う所は、初めから英語の話せるタレントを使うのでは無く、あまり英語を話せなかったさとみちゃんが徐々に上達していく様子を見せることで、実際のレッスンの効果を端的にみせることが出来ている所です。

航一郎の恋人、秋島貴子(真木よう子)は、親が病に倒れたために航一郎と一緒に行くことをあきらめ離島の診療所を継ぐことになります。のどかで美しい離島の風景とは裏腹に現在の日本が抱える厳しい現実が浮き彫りになります。

実は離島の僻地医療の問題の方がケニアの戦勝病院より深刻に見えてしまいました。もちろん過酷さは戦勝病院の方が圧倒的なのですが、ケニアの病院は世界中から手を差し伸べてもらえるのに対し、貴子のいる離島はだれも援助の手を差し伸べてはくれないですからね。

また、この映画では戦争という行為において人間が以下に残酷になれるかが、少年達の境遇を通して鮮烈に描かれています。恐怖心を押さえるために麻薬を打たれて戦場に送られること、地雷を除去するために子供達が横1列に並ばされて地雷原を歩かせられること、自分の知らなかった戦争の現実が鈍い痛みを伴って目の前にさらけ出されます。

ラストシーンでは黒人の青年が発した一言で、航一郎から始まった命のバトンが過去と現在、そして未来へとつながっていることが分かり、深い感動を覚えました。航一郎、そして和歌子の意志が未来への確実につながっていることをあの一言で端的に表現したさだまさしさんと監督に脱帽しました。

この映画を通じて私がもっとも感じた事は、無関心でいてはいけないなということでした。

昔読んだ東野圭吾さんの小説「天空の蜂」の中で、ちょっとうろ覚えなのですが、「最も罪深いのはその他大勢の無関心の一般大衆」というような表現が有ったと思います。(調べたら今度映画化されるのですね。表現も「沈黙の群集」という言葉が使われているようです。)

今も世界中で続く紛争と特に戦火に巻き込まれた悲惨な子供達の現実、離島などの僻地医療の問題、なかなか進まない福島を初めとする東北の復興など、正直普段まったく意識していなかった問題をあらためて考える切っ掛けをこの映画が与えてくれました。

画像:© / 123RF 写真素材

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